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元芸人の構成作家が【M-1グランプリ2020】敗者復活戦を採点

私、ことりはかつて吉本興業で4年少々芸人やっておりました。今もお笑いが好きというのは変わらず、いわゆる賞レースの決勝は毎回自分なりに採点して順位をつけております。今回はM-1グランプリ2020決勝の前に行われた敗者復活戦を勝手に採点してみました。
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M-1グランプリ2020敗者復活戦の採点をしてみた

M-1グランプリ2020敗者復活戦は

  • 視聴者が 「面白かったと思う3組」を全ネタ終了後に投票。最多の票を集めた1組だけが決勝に復活
  • 投票は公式サイト(スマホ・タブレット・パソコン)、またはテレビのリモコンのdボタンから投票可能。

という方式で、準決勝で敗退した16組(ボケの木崎の新型コロナウイルス感染により祇園は不参加)のうち15組が参加して行われました。

項目に分けて勝手に採点

項目を分けて採点してその合計点を各組ごとに出してみました。
  • 合計100点満点で採点。
  • 【構成】:25点満点(決勝進出最低ラインを20点)。
  • 【表現力・熱量】:25点満点(決勝進出最低ラインを20点)。
  • 【オリジナリティー】:20点満点(決勝進出最低ラインを15点)。
  • 【客受け】:20点満点(決勝進出最低ラインを15点)。
  • 【エクストラポイント】:10点満点で基準点は5、クスッとくるポイントがあれば加点、あとは出番順や個人的つぼなどで加点します。

1.金属バット

内容:結婚

構成 22/25
表現力・熱量 22/25
オリジナリティー 17/20
客受け 17/20
エクストラポイント 7/10
合計 85/100

「車上あらしみたいな顔」で1ポイント「国民の敵」で1ポイント、エクストラポイントは7になりました。

寸評

  • 毒っけのある金属バットらしい漫才ですが、毒の入れ方が直球過ぎてもう少しアップデートが必要かなと思ってしまいました。
  • 比較すると決勝進出した「ニューヨーク」の方が、ツッコミでエクスキューズを入れつつ、コンプライアンスだったりこのご時世だったりを皮肉っていて、今っぽい毒の入れ方をしている印象。

2.タイムキーパー

内容:幼稚園の先生

構成 21/25
表現力 23/25
オリジナリティー 15/20
客受け 16/20
エクストラポイント 5/10
合計 80/100

個人的にハマる箇所がなく、エクストラポイントは5になりました。

寸評

  • 子供の設定で子供が大人っぽいことを言うボケは、ちょっとありがちで観客の想像を上回ったり裏切ったりするのは難しいかなと思います。
  • 二人共演技力があって達者。違う設定で見てみたいです。まだ芸歴2年目ということなので今後に期待。

3.コウテイ

内容:盛大な結婚式をあげたい

構成 22/25
表現力 23/25
オリジナリティー 18/20
客受け 18/20
エクストラポイント 9/10
合計 90/100
「帰り道わかるようにしてくるな」の掴みで1ポイント、「絶対無理やろ」で1ポイント、「(ケーキの)中から切っとる」で1ポイント、拍手笑いがしっかり起きて1ポイント、エクストラポイントは9になりました。

寸評

  • コウテイらしさ全開でしっかりウケも取っていました。
  • 立場が入れ替わる前半と後半に分かれるネタでしたが、もっと後半に畳み掛けて(例えば前半部分をフリにしたボケを入れたり)笑いを取れていたら敗者復活勝ち上がりもあったかと。
  • 関西の賞レースで優勝するなど勢いに乗っており、来年の決勝進出有力候補だと思わせるコンビです。

4.カベポスター

内容:月の英語と九九を一緒に覚える

構成 23/25
表現力 21/25
オリジナリティー 17/20
客受け 16/20
エクストラポイント 6/10
合計 83/100
「九九やってる?」で仕組みを分からせるところで1ポイント、エクストラポイントは6になりました。

寸評

  • 見てる側に考えさせるネタで、観客に負担が掛かるネタはやはり“難しいネタ”という印象を持たれてしまうかも。
  • やってることは間違いなく面白いです。ただ、コウテイの後だけに余計にかもしれませんが、頭で考え過ぎたネタ、台本が透けて見える感じのネタに思えてしまいました。

5.インディアンス

内容:ツッコミのきむが昔は悪かった

構成 22/25
表現力 24/25
オリジナリティー 17/20
客受け 18/20
エクストラポイント 8/10
合計 89/100
最初しっかり掴んで1ポイント、2人が楽しそうにやってる雰囲気と人間性が垣間見える感じに1ポイント、大舞台でアドリブ入れる余裕に1ポイント、エクストラポイントは9になりました。

寸評

  • 二人が楽しそうに、いい意味で開き直って漫才したのが結果につながったのかなと思います。
  • 場の空気をしっかり支配して、会場の雰囲気も最高でした。
  • 審査員・観客にどういうネタをするか認知されてるだけに、来年に向けて田淵の小ボケの精度と脱線の仕方の工夫、ネタ本線の精度が更に上がることを期待。

6.からし蓮根

内容:ラーメン屋を開きたい

構成 23/25
表現力 22/25
オリジナリティー 16/20
客受け 17/20
エクストラポイント 6/10
合計 84/100
座右の銘のくだりで1ポイント、エクストラポイントは6になりました。

寸評

  • 去年決勝に進出し、露出も増えてボケの伊織のキャラが認知されてしまってる中、ネタがオーソドックス過ぎて裏切りが少ない印象。
  • 個人的にはもっとボケが大暴れするネタが見たかったです。オチでラーメン屋に閉じ込められて終わるのですが、例えば途中で店から出ようとしたら閉じ込められて出られなくなって、そこから店主であるボケの伊織のヤバさがどんどん見えてくる展開とかだと、ボケの幅も広がったのではないかと。

7.ぺこぱ

内容:否定しないツッコミ

構成 20/25
表現力 21/25
オリジナリティー 16/20
客受け 16/20
エクストラポイント 6/10
合計 79/100
すっかり売れっ子となりネタ作りをする時間もあまり取れないであろう中、M1出場を決めた心意気に1ポイント、エクストラポイントは6になりました。

寸評

  • 完全にキャラクターとシステムを認知されてしまっている中、それをフリにしたネタですが、いかんせんネタが粗くとっちらかってる印象です。
  • シチュエーションが途中で変わっていくネタですが、笑いが増幅されずその都度ウケもリセットされてしまったと思います。ワンシチュエーションでやり切るか、もっとショートコント的にポンポンシチュエーションを変えるか(その上で前半のネタが後半のフリになってたり)どちらかかなと。
  • 準決勝でやったネタはもっと洗練されていたので、やはり忙しくて2本完成させる時間がなかったのかもしれません。

8.ランジャタイ

内容:欽ちゃんの仮装大賞

構成 20/25
表現力 20/25
オリジナリティー 16/20
客受け 15/20
エクストラポイント 5/10
合計 76/100
個人的にハマる箇所がなく、エクストラポイントは5になりました。

寸評

  • 独自の世界観があるコンビですが、観客の心を掴めていませんでした。
  • 二人だけでやりたいことをやってる感じが強く、見ている側がその世界に入り込めなかったという印象。さすがに決勝に上がるにはもう少し“わかりやすさ”は必要かなと。

9.滝音

内容:映画

構成 21/25
表現力 22/25
オリジナリティー 17/20
客受け 16/20
エクストラポイント 7/10
合計 83/100
独特のワードセンスに1ポイント、ババアのハンプティーダンプティーを1ダースに1ポイント、エクストラポイントは7になりました。

寸評

  • 話題が次々と移っていき、軸となるテーマがないネタでとっ散らかった印象を持ってしまいました。
  • ワードセンスは光るものがあるので、ワンテーマでメインとなる筋があるネタを見てみたいなと思いました。

10.キュウ

内容:ゴリラであいうえお作文すんなよ

構成 22/25
表現力 20/25
オリジナリティー 17/20
客受け 16/20
エクストラポイント 5/10
合計 80/100
個人的にハマる箇所がなく、エクストラポイントは5になりました。

寸評

  • 考えながら見てないとついていけないネタ。丁寧に説明を入れてるつもりだとは思いますが、途中で気持ちが一瞬でも離れてしまうと戻ってこれないネタだったかなと。
  • 台本上では面白いのは間違いないですが、いざ舞台でやって観客を引きつけるにはもっとわかりやすい説明が必要、かつボケツッコミ二人共の馬力が相当ないと難しいネタという印象です。

11.学天即

内容:誕生日にサプライズパーディーを開いてあげる

構成 22/25
表現力 23/25
オリジナリティー 16/20
客受け 18/20
エクストラポイント 7/10
合計 86/100
「貴乃花の息子じゃないんですよ」の掴みがハマり1ポイント、最後オチがしっかり決まり1ポイント、エクストラポイントは7になりました。

寸評

  • M-1ラストイヤーの「学天即」、しっかり仕上げてきてウケも良かったです。
  • 誕生日にサプライズパーティーをするというネタなら、漫才コントにして誕生日を祝う2人を演じた方が、もっと見やすかったのではと思いました。
  • M-1の呪縛から逃れた2人がノビノビとアドリブ満載でやるネタを楽しみにしています。

12.ゆにばーす

内容:出会い系アプリ

構成 23/25
表現力 23/25
オリジナリティー 16/20
客受け 18/20
エクストラポイント 7/10
合計 87/100
「ふざけんなよー」のツッコミがハマり1ポイント、大きな拍手笑いがあり1ポイント、エクストラポイントは7になりました。

寸評

  • しっかりウケていました。男女コンビならではの関係性を生かしたよく出来たネタでした。
  • ただ決勝に上がるには、題材がマッチングアプリでウエストランドと被り、絶叫系のツッコミは「おいでやすこが」とやや被っており、そこが決勝進出に至らなかったポイントかもしれません。

13.ダイタク

内容:親父のボウリング

構成 22/25
表現力 22/25
オリジナリティー 16/20
客受け 17/20
エクストラポイント 5/10
合計 82/100
個人的にハマる箇所がなく、エクストラポイントは5になりました。

寸評

  • 技術と安定感はありますが、ワクワクするような箇所や裏切られる展開がなかった印象です。
  • もっと脱線したり、あるいは見てる側が一瞬違和感を持つ箇所だったり、観客の感情を動かすところが無いと、ネタがさらっと流れてしまうかなと思います。

14.ロングコートダディ

内容:組み立て式の木の棚

構成 22/25
表現力 21/25
オリジナリティー 16/20
客受け 16/20
エクストラポイント 6/10
合計 81/100
「薄着だなと思ったコンビ3組に投票してもらえると」というつかみがウケて1ポイントで、エクストラポイントは6になりました。

寸評

  • 「組み立て式の木の棚」を買ったという、そのワンテーマで押し切れるのは見事でしたが、ボケは基本ボケずに普通のことを言ってるのに、それに対するツッコミがオーバーに感じてしまい大袈裟な印象。
  • ボケがもっとありえない事を言うのか変なこだわりがあるのか、何かおかしな部分が無いと、普通の事をしてるボケにツッコミが言いがかりをつけてるように感じてしまいました。

15.ニッポンの社長

内容:ペットを飼いたい

構成 20/25
表現力 21/25
オリジナリティー 15/20
客受け 16/20
エクストラポイント 6/10
合計 78/100
最後のオチ「何見てんねん」がハマり1ポイントで、エクストラポイントは6になりました。

寸評

  • 絶叫系ツッコミの力技で持っていくネタですが、今大会で言うと「おいでやすこが」がシンプルだがわかりやすいボケへの力技ツッコミで完全に上位互換になってしまった印象。
  • ロングコートダディに続きボケが普通のことを言ってるのに、ツッコミが過剰に感じてしまいました。

独断と偏見での採点結果

1位 90 コウテイ
2位 89 インディアンス
3位 87 ゆにばーす
4位 86 学天即
5位 85 金属バット
6位 84 からし蓮根
7位 83 カベポスター
7位 83 滝音
9位 82 ダイタク
10位 81 ロングコートダディ
11位 80 タイムキーパー
11位 80 キュウ
13位 79 ぺこぱ
14位 78 ニッポンの社長
15位 76 ランジャタイ

実際の視聴者投票の結果は

1位 インディアンス
2位 ゆにばーす
3位 ぺこぱ
4位 学天即
5位 からし蓮根
6位 コウテイ
7位 金属バット
8位 ダイタク
9位 ニッポンの社長
10位 ロングコートダディ
11位 滝音
12位 タイムキーパー
13位 キュウ
14位 カベポスター
15位 ランジャタイ

インディアンスが敗者復活戦を勝ち抜き、決勝進出を決めました。

私の採点と視聴者投票で大きく異なるのは
  • 私の採点で1位になった「コウテイ」が視聴者投票では4位
  • 私が13位にした「ぺこぱ」が視聴者投票で3位
  • 同じく私が7位タイにした2組「滝音」が視聴者投票で11位、「カベポスター」は14位

といったところ。「インディアンス」が決勝進出したのは、会場でも大いにウケていたので納得の結果です。

敗者復活戦を振り返って

敗者復活戦15組に関してストレートに決勝進出に至らなかった理由をいくつか考えてみました。
  • ある程度の基準のネタで技術はあるが爆発力がなかった:「タイムキーパー」「ダイタク」
  • ウケてはいたが、設定やボケの内容がありきたりだと判断された :「インディアンス」「からし蓮根」「学天即」
  • 上位互換の組がいて、そちらが決勝進出を果たした:「金属バット」「ゆにばーす」
  • ネタが独りよがりで観客の心を掴みきれなかった:「コウテイ」「ランジャタイ」「ニッポンの社長」
  • 見てる側に考えさせるネタで観客の心が離れてしまった:「カベポスター」「キュウ」
  • ネタの構成に弱いところがあった:「ぺこぱ」「ロングコートダディ 」「滝音」

と、勝手ながらに想像しております。

準決勝までの審査で落とされる基準

決勝進出に至らない、準決勝までの審査で落とされる基準をいくつか考えてみました。
  • 単純にウケが弱い。
  • ネタが独りよがりで観客を置いてけぼりにしている。
  • ウケていてもありがちな設定や(“モテたい”や子供の設定で大人びた事を言う”など)、ありきたりのボケが多い
  • 似たようなキャラや似たような設定で、上位互換の組がいる
  • 毒舌や下ネタがストレート過ぎる

といったところが、落とされる要素としてあるかなと敗者復活戦を分析した、私なりの想定です。

2021年大会の予想・展望

気が早いですが2021年大会の決勝進出候補を、“準決勝進出以上”で“決勝ファーストラウンドで敗退した組”からタイプ別に分類して最大3組ずつあげてみたいと思います。
  • 実力は十分、ネタのチョイスを間違えたりしなければ:「ニューヨーク」「オズワルド」「錦鯉」
  • 掛け合いの妙、技術を基にしつつある程度観客を裏切るようなネタを披露できたら:「インディアンス」「ゆにばーす」「からし蓮根」
  • 強烈なキャラクターが観客に受け入れられて、それでいて練られたネタでしっかりウケを取れたら :「金属バット」「コウテイ」「」「ニッポンの社長」
  • トリッキーさ斬新さを保ちつつ、わかりやすさのあるネタで観客の心が掴めたら:「東京ホテイソン」「カベポスター」「滝音」

もちろん準々決勝以下で敗退した組やまだ見ぬ新星の台頭含め、どんな大会になるかは全く分かりませんが、勝手に妄想しております。

M-1以外の賞レースも勝手に採点をしております。
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