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元芸人の構成作家が【M-1グランプリ2020】決勝の審査を分析

私、ことりはかつて吉本興業で4年少々芸人やっておりました。今もお笑いが好きというのは変わらず、いわゆる賞レースの決勝は毎回録画して自分なりに採点し、審査員の審査(得点)の分析を行っております。今回はM-1グランプリ2020決勝の審査を分析してみたいと思います。以下敬称略。
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M-1グランプリ2020決勝の審査方法

M-1グランプリ2020テレビでオンエアされる決勝の審査方法は
  • 「ファーストラウンド」は7人の審査員が1人100点の持ち点で審査。
  • 1組のネタが終わるごとに「笑神籤(えみくじ)」というクジで、次にネタを披露する芸人が決まる。
  • 昼間に行われた敗者復活戦によって、1組が決勝に勝ち上がる。
  • ファーストラウンド10組のネタ終了後、得点上位3組が「最終決戦」に進出。
  • 最終決戦はファーストラウンド3位→2位→1位の順に2本目のネタを披露し、審査員は3組のうち1組に投票。最も票数を集めた芸人が優勝となる。

という方式です。

審査員はオール巨人、サンドウィッチマン富澤たけし、ナイツ塙宣之、立川志らく、中川家礼二、ダウンタウン松本人志、上沼恵美子の7名。2018年、2019年に続き3年連続この7人です。

ファーストラウンドの審査結果を振り返る

巨人 富澤 志らく 礼二 松本 上沼 合計 平均
インディアンス ③89 ⑨89 ⑧85 ⑧89 ⑧90 ⑤90 ⑤93 ⑦625 89.29
東京ホテイソン ⑩86 ⑥91 ⑧85 ⑧89 ⑩88 ⑨86 ⑦92 ⑩617 88.14
ニューヨーク ⑥88 ②93 ④93 ⑤91 ⑥91 ③92 ②94 ⑤642 91.71
見取り図 ②91 ④92 ④93 ③93 ④93 ④91 ①95 ③648 92.57
おいでやすこが ①92 ②93 ④93 ①96 ②95 ①95 ②94 ①658 94.00
マヂカルラブリー ⑥88 ①94 ③94 ⑥90 ①96 ②93 ②94 ②649 92.71
オズワルド ⑥88 ⑥91 ①95 ③93 ②95 ⑧88 ⑦92 ⑤642 91.71
アキナ ③89 ⑩88 ⑦87 ⑥90 ⑥91 ⑩85 ⑦92 ⑧622 88.86
錦鯉 ⑨87 ④92 ①95 ②95 ⑤92 ⑦89 ⑤93 ④643 91.86
ウエストランド ④88 ⑥91 ⑧85 ⑩86 ⑧90 ⑤90 ⑦92 ⑧622 88.86

審査結果

  • 今回は審査がわれました。7人中が3人が「おいでやすこが」に最高点を付け、2人が「マヂカルラブリー」に最高点を、「見取り図」「オズワルド」「錦鯉」にも1人ずつが最高点(ナイツ塙は2組同点で最高点)を付けました。
  • そんな中3人から最高点、7人全員から92点以上の評価を得て「おいでやすこが」がトップで最終決戦進出。
  • 中川家礼二が96点、オール巨人が88点と8点差が付くなど、審査員によって評価が分かれましたが、4人が93点以上の点数を付けた「マヂカルラブリー」が2位で最終決戦進出。
  • 最高点を付けたのは上沼恵美子1人だけでしたが、全員が90点以上を付けた「見取り図」が3位で最終決戦進出を決めました

審査の傾向

巨人 富澤 志らく 礼二 松本 上沼
最高得点 92 94 95 96 96 95 95
最低得点 86 88 85 86 88 85 92
得点差(最高点-最低点) 6 6 10 10 8 10 3
  • 塙、志らく、松本の3人は最高得点と最低得点の差が10点、一方上沼は3点で最高と最低の点数差が少ない。
  • 今回は上記マヂカルラブリー以外にも「インディアンス」「錦鯉」も最高得点と最低得点の差が8点あり、審査員によって評価が分かれる組が多かった
  • 「見取り図」と「おいでやすこが」は最高得点と最低得点の差が4点と安定して審査員に評価されていました。
  • 「オズワルド」は95点を付けた審査員が2人、88点を付けた審査員が2人と評価が真っ二つに分かれました。

オール巨人の審査の特徴

  • 「インディアンス」「アキナ」への評価が他の審査員より高く、「マヂカルラブリー」への評価が低め。
  • しゃべくり漫才を評価する傾向にあると言われがちだが、今回最高得点を付けたのは「おいでやすこが」。
  • 今回最高得点が92点とやや低く、どの組も決め手に欠けるという判断だったのかもしれません。

サンドウィッチマン富澤の審査の特徴

  • 富澤が高い点数を入れた組はファーストラウンド上位に、低い点数を付けた組は下位になっており、結果的にファーストラウンドの順位に近い審査に。
  • 「ニューヨーク」に10組中2位の点数を付け、評価が高かった。

ナイツ塙の審査の特徴

  • 「オズワルド」「錦鯉」に自身の最高点95点を付けていたのが、他の審査員とは異なる特徴。
  • 最高得点と最低得点で10点差を付けており、また上位6組に93点以上、下位4組は87点以下と明確な差を付けていたのも特徴です。

立川志らくの審査の特徴

  • 「マヂカルラブリー」に10組中6位の点数を付けて、他の審査員より低い評価でした。
  • 「錦鯉」に2位、「オズワルド」に3位の点数を付けており、上位と下位への点数の付け方もナイツ塙と傾向が近い印象。

中川家礼二の審査の特徴

  • 「オズワルド」に95点と高評価を付けているのが特徴。
  • ナイツ塙、立川志らくとやや傾向が似ており「オズワルド」「錦鯉」への評価が高く、「インディアンス」「ウエストランド」への評価が低め。

松本人志の審査の特徴

  • 「ニューヨーク」に10組中3位の点数を付け高評価。
  • 「錦鯉」に10組中7位、「オズワルド」に10組中8位と低めの点数を付けているのが、その2組への評価が高かったナイツ塙・立川志らく・中川家礼二とは異なる特徴。
  • 「インディアンス」と「ウエストランド」が同じ90点なのを除くと、それ以外の8組には全て異なる点数を付け、かつ最高得点と最低得点で10点差があります。しっかりとしたブレない基準を持ち、その年の審査全体の方向性を導く役割を自ら果たしている印象です。

上沼恵美子の審査の特徴

  • 80点台が無く、全組が95点から92点の3点差の間に入っているのが特徴。
  • 点数差が少ないため今回に関して傾向は読みづらいです。
  • オール巨人と同じく、どの組も決め手に欠けるという判断だったのかもしれません。

最終決戦の審査結果を振り返る

審査員の投票結果は
巨人 冨澤 志らく 礼二 松本 上沼
見取り図 マヂカルラブリー 見取り図 マヂカルラブリー マヂカルラブリー おいでやすこが おいでやすこが
  • 1位:マヂカルラブリー3票
  • 2位タイ:おいでやすこが2票
  • 2位タイ:見取り図空2票
マヂカルラブリーが優勝

審査結果に関して

  • 最終決戦は見事に審査員によって評価が分かれました。
  • ファーストラウンドで「マヂカルラブリー」に最高得点を付けたサンドウィッチマン富澤・中川家礼二が、最終決戦でも「マヂカルラブリー」に投票。
  • ファーストラウンドで「おいでやすこが」に1位の96点、「マヂカルラブリー」には6位タイの90点の評価だった立川志らくが、最終決戦では「マヂカルラブリー」に投票したことにより、結果的に「マヂカルラブリー」が優勝に輝きました。
  • ファイナルラウンドで「おいでやすこが」に最高得点を付けた3人のうち、オール巨人は「見取り図」に、立川志らくが「マヂカルラブリー」に投票したのは、1本目とパターンが同じだと見做されたのか、あるいは1本目よりパワーダウンしたという評価なのか。

今大会に関して

ネット上で見られた意見

M-1グランプリ2020決勝終了後、ネットで多く言及されていたのが「マヂカルラブリー」に関しての“あれは漫才じゃない”という意見です。ちなみにM-1グランプリのオフィシャルサイトによると、出場資格は

  • 結成15年以内
  • プロ・アマ、所属事務所の有無は問わず
  • 2人以上6人以下の漫才師に限流、1名(ピン)での出場は不可。

で、審査基準は“とにかくおもしろい漫才”としか書いていません。

個人的に考える漫才の定義

個人的には、M-1という賞レースにおいて

  • 複数人で演じる。ピンの場合は“漫談”というジャンル。
  • セットが無い素舞台でセンターマイクのみ(青空球児・好児のようにセンターマイクを使わない漫才師もいます)。
  • ネタ中のキッカケ(効果音や明転暗転や映像出しなど本人以外のスタッフがネタに関与すること)が無い

以上を満たせば“漫才”だと思っています。最終的にはネタを演じる本人たちが漫才だと自称すれば全部“漫才”で、M-1に関しては主催者が認めればどんなスタイルでもそれは“漫才”ということでよいのではないでしょうか。

2020年M-1の傾向

昨年2019年の大会は「ミルクボーイ」がM-1史上最高得点を記録して優勝しました。2位の「かまいたち」3位「ぺこぱ」以下、過去最高の大会と呼ばれるほどハイレベルな大会でした。

個人的見解

  • 2019年は上位3組が顕著でしたが、“掛け合いの奥深さ”を感じる大会だったと思います。10組それぞれのスタイルの“掛け合いの妙”を見ることが出来た大会だったなと改めて感じます。
  • 今年2020年は「マヂカルラブリー」のような“掛け合わない漫才”含め、様々なジャンル・スタイルの漫才を見ることが出来た“漫才の幅の広さ”を感じる大会だったと思います。
年に一度、“漫才”というものに関して様々な意見が飛び交い、“漫才”“笑い”について考えさせれる唯一無二のコンテンツになっている時点で、「M-1グランプリ」の功績と偉大さを改めて実感します。
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