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元芸人の構成作家が【M-1グランプリ2021】決勝の審査を分析

ことりです。構成作家・脚本・イベント制作を生業としております。
私、ことりはかつて吉本興業で4年少々芸人やっておりました。今もお笑いが好きというのは変わらず、いわゆる賞レースの決勝は毎回録画して自分なりに採点し、審査員の審査(得点)の分析を行っております。今回はM-1グランプリ2021決勝の審査を分析してみたいと思います。以下敬称略。
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M-1グランプリ2021決勝の審査方法

M-1グランプリ2021テレビでオンエアされる決勝の審査方法は
  • 「ファーストラウンド」は7人の審査員が1人100点の持ち点で審査。
  • 1組のネタが終わるごとに「笑神籤(えみくじ)」というクジで、次にネタを披露する芸人が決まる。
  • 昼間に行われた敗者復活戦によって、1組が決勝に勝ち上がる。
  • ファーストラウンド10組のネタ終了後、得点上位3組が「最終決戦」に進出。
  • 最終決戦はファーストラウンド3位→2位→1位の順に2本目のネタを披露し、審査員は3組のうち1組に投票。最も票数を集めた芸人が優勝となる。

という方式です。

審査員はオール巨人、サンドウィッチマン富澤たけし、ナイツ塙宣之、立川志らく、中川家礼二、ダウンタウン松本人志、上沼恵美子の7名。2018年、2019年、2020年に続き4年連続この7人です。

ファーストラウンドの審査結果を振り返る

巨人 富澤 志らく 礼二 松本 上沼 合計 平均
モグライダー ④91 ③93 ⑤92 ⑩89 ⑧90 ⑧89 ⑥93 ⑧637 91.00
ランジャタイ ⑩87 ⑤91 ⑨90 ①96 ⑨89 ⑩87 ⑩88 ⑩628 89.71
ゆにばーす ⑦89 ④92 ⑦91 ⑦91 ⑦93 ⑨88 ⑤94 ⑥638 91.14
ハライチ ⑨88 ⑦90 ⑩89 ⑧90 ⑨89 ④92 ①98 ⑨636 90.86
真空ジェシカ ⑥90 ⑩89 ⑤92 ⑤94 ⑤94 ⑦90 ⑨89 ⑥638 91.14
オズワルド ①94 ①95 ①95 ①96 ①96 ①96 ⑥93 ①665 95.00
ロングコートダディ ⑦89 ⑦90 ③93 ④95 ③95 ⑥91 ③96 ④649 92.71
錦鯉 ②92 ②94 ②94 ⑧90 ①96 ②94 ④95 ②655 93.57
インディアンス ②92 ⑤91 ③93 ⑤94 ⑤94 ③93 ①98 ②655 93.57
もも ④91 ⑦90 ⑦91 ①96 ③95 ④92 ⑧90 ⑤645 92.14

審査結果

  • 審査員7人中6人が10組中1位の点数(一番高い点数)を付けた「オズワルド」が2位に10点差を付け文句無しのトップで最終決戦進出。
  • 続いて審査員1人が1位の点数(トップタイを含む)で全員が4位以上の点数を付けた「錦鯉」と、同じく1人が1位の点数で全員が5位以上の点数を付けた「インディアンス」が同点で2位タイで最終決戦進出。
  • 今年は最終決戦進出ラインが2位タイ「錦鯉」「インディアンス」の655点と現行の制度になってから最も高く(去年は3位の「見取り図」が648点)、10位の「ランジャタイ」が628点で去年7位の「インディアンス」の点数625点より高いなど、全体的に点数が高かった。
  • 6位タイの「ゆにばーす」と「真空ジェシカ」が638点で同点。7位「モグライダー」(637点)と8位「ハライチ(636点)」が1点差で続くという僅差に。

審査の傾向

巨人 富澤 志らく 礼二 松本 上沼
最高得点 94 95 95 96 96 96 98
最低得点 87 89 89 89 89 87 88
得点差(最高点-最低点) 7 6 6 7 7 9 10
  • 去年は最低点数86点以下の審査員が4人いたが、今年は全員が87点以上と下位でも点数が高かった。
  • 番組中でも触れられましたが「モグライダー」が審査員7人制でのトップバッター歴代最高得点となり、それが基準となったのも全体の点数が高くなった要因と推察されます。
  • 「ハライチ」は上沼が98点で巨人が88点と10点差が付き、「ランジャタイ」は志らくが96点で巨人と松本が87点と9点差が付き、審査員によって評価が分かれた。

オール巨人の審査の特徴

  • 去年は90点以上を付けたのが2組で8組が80点代という採点でしたが、今年は90点以上が6組と点数が高め。
  • 「ロングコートダディ」への点数が他の審査員より低め。審査コメントでも言及があったように、やはりセンターマイクの前にいる時間が短くコントっぽいと見なされて点が低くなったか。

サンドウィッチマン富澤の審査の特徴

  • 「モグライダー」に10組中3位の点数を付け評価が高く、「真空ジェシカ」に10組中10位の点数と評価が低め。
  • 「ランジャタイ」と「インディアンス」というタイプが全く違う2組が同じ91点というのも特徴的。

ナイツ塙の審査の特徴

  • 塙が高い点数を入れた組はファーストラウンド上位に、低い点数を付けた組は下位になっており、結果的にファーストラウンドの順位に近い審査に。
  • 審査員7人の平均点と塙の点との点数差が全て2点差以内(うち8組は1点差以内)と、結果的にほぼ7人の平均となる点数を付けてました。

立川志らくの審査の特徴

  • 最下位の「ランジャタイ」に10組中1位の点数を付け、優勝した「錦鯉」に10組中8位の点数を付けるなど、他の審査員とは異なる評価。
  • 塙と対象的に、審査員7人の平均点と志らくの点数が2点以上差があったのが6組とかなり独自の採点となってました。

中川家礼二の審査の特徴

  • 「ロングコートダディ」「もも」に95点、「真空ジェシカ」に94点と高評価を付けているのが特徴。
  • 「真空ジェシカ」以降の6組に全て94点以上と高い点数を付け、その6組が94点2組に95点96点それぞれ2組ずつと僅差で固まりました。

松本人志の審査の特徴

  • 「ゆにばーす」に88点と7人中唯一80点代の低めの点数を付けてるのが特徴。
  • 「ハライチ」と「もも」が同じ90点なのを除くと、それ以外の8組には全て異なる点数を付け、かつ最高得点と最低得点で9点差。
  • 例年同様今年もしっかりとしたブレない基準を持ち、その年の審査全体の方向性を導く役割を自ら果たしている印象です。

上沼恵美子の審査の特徴

  • 去年は全組が95点から92点の3点差の間に入っていたのですが、今年は最高得点98点で最低得点88点と点数差がある採点に。
  • 「ハライチ」に98点と他の審査員と6点以上異なる点数を付けたのが特徴的。
  • 審査員7人の平均点と上沼の点数が2点以上差があったのが8組と、志らく以上に独自の採点となってました。

最終決戦の審査結果を振り返る

審査員の投票結果は
巨人 冨澤 志らく 礼二 松本 上沼
オズワルド 錦鯉 錦鯉 錦鯉 錦鯉 錦鯉 インディアンス
  • 1位:錦鯉5票
  • 2位タイ:オズワルド1票
  • 2位タイ:インディアンス1票
錦鯉が優勝

審査結果に関して

  • 去年は最終決戦の票が割れましたが、今年は7人中5人が「錦鯉」に投票。
  • ファーストラウンドで7人中6人が最高得点を付けた「オズワルド」が最終決戦ではオール巨人の1票にとどまった。
  • ファーストラウンドで「インディアンス」に1位の98点を付けた上沼恵美子が、最終決戦でも「インディアンス」に投票。

今大会に関して

去年から変更されたところ

控え室から舞台までの移動シーン

今年は廊下を移動するシーンも放送され、そこに視聴者からの応援コメントをアナウンサーが添えていました。舞台へ向かう表情を見せることで、より高揚感を煽る演出に。

舞台機構の変更

舞台機構とは舞台に設置されている、手動・電動・油圧などにより作動させる演出効果用の機器のこと。

去年は「せり上がり」で下から床が上がってくる形でしたが、今年は「回転せり上がり」で180度回転しながら床が上がってくる形に変更。これは2020年大会の「マヂカルラブリー野田クリスタル」の土下座しながらのせり上がりがウケたことを踏まえて、同じようなせり上がりを利用してのツカミをさせないためでしょうか?

審査員の登場の仕方の変更

去年までは1人ずつ紹介映像があって、奥の台上から登場して審査員席へという流れで、中川家礼二いわく「審査員も登場でボケせなあかん」。

今年は幕に紹介映像を流れて、映像の最後が7人のシルエットで。その幕を振り落とすと7人がシルエットと同じ並びで立っているという形でした。個人的には尺を短くすることができ、それでいて審査員の威厳は感じる演出でこの変更は良かったのではないかと思います。

出場資格の変更

公式サイトによると「M1グランプリ2021」の出場資格は

  • 結成15年以内(プロとしての活動休止期間は、結成年数から除区)
  • プロ・アマ、所属事務所の有無は問わず
  • 2人以上の漫才師に限ります。(1名(ピン)での出場は不可。)

審査基準として記載されてるのは、今年も“とにかくおもしろい漫才”のみ。

となっていて大きく変わってはいないのですが、2020年にはあった「2人以上6人以下の漫才師に限ります」記載が無くなりました。つまり人数の上限がありません。理論上は10人20人での参加も可能ということになります。果たしてチャレンジする人たちは現れるのでしょうか?

2021年M-1の傾向

2020年の大会は「マヂカルラブリー」が優勝し”漫才か漫才じゃないか”の論争が起きたりました。今年は審査結果やネタの内容に関してあまり論争は起きず平和に終わりました。

  • 今年は「錦鯉」が優勝し、史上最年長50歳のチャンピオンが誕生し審査員ももらい泣きする感動の大会となりました。
  • 個人的には2019年は“掛け合いの奥深さ”を、2020年は“漫才の幅の広さ”を、そして今年2021年は“M-1という大会の競技レベルの底上げ”を感じる大会という印象です。

10位の「ランジャタイ」の628点が現行の制度になってから最も高い点数になるなど、全体的に点数が高く上位と下位で差が付きませんでした。

準決勝を配信で見ましたが16組のネタを見て「ここは決勝絶対ムリだろうな」と思わせる出来の組が去年より明らかに少なく、12〜3組は勝負になりそうだと感じました。全体のレベルが1年でぐんと上がった結果が、これまでの常連組やテレビでも人気の実力者が決勝進出できないという事態を引き起こしたと言えると思います。

決勝に進むまでの道のりがよりハードになり、知名度や過去の実績だけでは超えられない高くて分厚い壁になっている印象です。そんな中最終決戦進出3組に残るために必要だと個人的に思うことを以下に列挙しておきます。

  • ボケだけ、ツッコミだけどちらかがが強いだけではダメで、2人ともが強くて技術と表現力と度胸を兼ね備えてないと勝ち上がれない。
  • 設定やワードチョイスのセンスだけでは勝ち上がれないが、上手いだけではそもそも決勝まで残れない。
  • 展開や流れにムリがあったり破綻があるネタでは勝ち上がれないが、どこかそのコンビならではのオリジナルな部分がないとダメ。
  • 4分間の時間の使い方(ペース配分やリズム・テンポなど)を計算し、より有効に使わなければならない。
  • 台本が優れていても、表現力や技術があっても、ネタにそれを演じる人間がしっかり乗ってないとダメ。

またキングオブコント2021が終わった時点で、個人的に今年のM-1の傾向を予想していました。

事前にこうなるのではと予想してたことと実際の結果を以下に書きます。

  • キングオブコントからの流れで、多くの人が無意識に持ってる偏見、誰もがなんとなく貼っているレッテルをどう上手く剥がして、“正しい”と判断されていることをひっくり返す裏切りがみられるのではないかと期待。→決勝進出組にはあまりこの傾向はなかったか。
  • ツッコミの方向性として、一例を挙げるなら「そのままだと危険だから声を掛ける」のようにツッコまざるを得ない理由があるからツッコむ、あくまで自分の側としては真っ当だと思う主張としてツッコむ、といった“ツッコミの理由づけ”“ツッコミの説得力”ががカギになってくるのでは。→これは今回最終決戦進出した3組に特に感じた部分で、自分の中では予想した通りになったかなと。
  • 題材やテーマが例えば「宇宙船」とか「死語の世界」のような非日常でありながらも、ちゃんと想像できそうないい塩梅のものを考えて、その状況を生かした展開をしっかり作ってくるコンビや、(トリオかもしれませんが)が出てくるのではないか。→「ロンクコートダディ」などが当てはまるかと。
  • 関係性や立場の違う2人の逆転や土壇場での共感、例えば「いじめっ子といじめられっ子」「先生と生徒」のような関係だった2人が、ひょんなことで出会って・・・→ちょっと強引に捉えれば「もも」などが当てはまるかと。そういう意味で「もも」が途中で一回、2人が言い合ってる途中で一瞬共感する部分があったりしてもよかったのかなと。
年に一度、“漫才”というものに関して様々な意見が飛び交い、毎年新たなスターを生み出す唯一無二のコンテンツ「M-1グランプリ」、来年2022年がどんな大会になるか今から楽しみです。
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