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元芸人の構成作家が【M-1グランプリ2024】決勝の審査を分析

私、ことりはかつて吉本興業で4年少々芸人やっておりました。今もお笑いが好きというのは変わらず、いわゆる賞レースの決勝は毎回録画して自分なりに採点し、審査員の審査(得点)の分析を行っております。今回はM-1グランプリ2024決勝の審査を分析してみたいと思います。以下敬称略。
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M-1グランプリ2024決勝の審査方法

M-1グランプリ2024テレビでオンエアされる決勝の審査方法は
  • 「ファーストラウンド」は9人の審査員が1人100点の持ち点で審査。
  • 1組のネタが終わるごとに「笑神籤(えみくじ)」というクジで、次にネタを披露する芸人が決まる。
  • 昼間に行われた敗者復活戦によって、1組が決勝に勝ち上がる。
  • ファーストラウンド10組のネタ終了後、得点上位3組が「最終決戦」に進出。
  • 最終決戦はファーストラウンド上位の組からネタ順を選択。3組のネタ披露後、審査員は3組のうち1組に投票。最も票数を集めた芸人が優勝となる。

という方式です。

審査員は博多大吉、ナイツ塙宣之、笑い飯哲夫、オードリー若林正恭、NON STYLE石田明、かまいたち山内健司、アンタッチャブル柴田英嗣、海原ともこ、中川家礼二の9名。審査員が9人になったのは2015年以来9年ぶり2度目です。

ファーストラウンドの審査結果を振り返る

大吉 哲夫 若林 石田 山内 柴田 ともこ 礼二 合計 平均
令和ロマン ②96 ④93 ⑥90 ②94 ②96 ②96 ②95 ①97 ④93 ②850 94.44
ヤーレンズ ⑦92 ⑦92 ④91 ⑥92 ⑤92 ⑧91 ⑤91 ⑥94 ⑨90 ⑤825 91.67
真空ジェシカ ①97 ②94 ⑥90 ④93 ④95 ①97 ③94 ④95 ③94 ③849 94.33
マユリカ ⑥93 ⑧91 ⑩88 ⑧91 ⑥91 ⑨90 ⑥89 ③96 ⑧91 ⑦820 91.11
ダイタク ⑧90 ④93 ⑧89 ⑥92 ⑦90 ⑦92 ⑧88 ⑥94 ⑦92 ⑦820 91.11
ジョックロック ⑨89 ⑧91 ④91 ⑨90 ⑨89 ⑤93 ⑧88 ④95 ④93 ⑨819 91.00
バッテリィズ ③95 ④93 ①95 ①95 ①97 ②96 ①96 ①97 ①97 ①861 95.67
ママタルト ⑩88 ⑩89 ⑧89 ⑩89 ⑦90 ⑤93 ⑥89 ⑩92 ④93 ⑩812 90.22
エバース ⑤94 ②94 ②93 ②94 ②96 ④94 ④93 ⑥94 ②96 ④848 94.22
トム・ブラウン ③95 ①95 ③92 ④93 ⑩88 ⑨90 ⑩87 ⑥94 ⑩89 ⑥823 91.44

審査結果

  • 9人中6人が最高得点(10組中1位の点数)、9人中8人が95点以上を付けた「バッテリィズ」が、2位「令和ロマンに11点差を付けてトップで最終決戦進出。
  • 続いて、1人が最高得点を付けて5人が95人以上を付けた「令和ロマン」と、2人が最高得点を付けて4人が95点以上の点数を付けた「真空ジェシカ」が、それぞれ2位と3位で最終決戦進出。
  • 2位「令和ロマン」が850点、3位「真空ジェシカ」が849点、4位「エバース」が848点と3組が1点差の大接戦。
  • 上位4組は平均点が94点以上、5位の「ヤーレンズ」が91点代と差が開いた。過去の傾向を見ても、最終決戦進出には平均で94点を超える必要があることがわかっています。
  • 5位「ヤーレンズ」から9位「ジョックロック」の5組が6点差と団子状態で、9位から最下位の「ママタルト」までは7点の差が開きました。
  • 5位の「ヤーレンズ」は9人全員が90点以上94点以下なのに対して、6位の「トム・ブラウン」は2人が95点以上で80点代が3人という対照的な結果に。

審査の傾向

大吉 哲夫 若林 石田 山内 柴田 ともこ 礼二
最高得点 97 95 95 95 97 97 96 97 97
最低得点 88 89 88 89 88 90 87 92 89
得点差(最高点-最低点) 9 6 7 6 9 7 9 5 8
  • 今年は最高得点と最低得点で10点差以上を付けた審査員がゼロと、1人の審査員による点数差が付きにくくなったが、審査員の人数が増えたことで全体の点数には差が付いた。
  • 審査員によって最も点数に差があったのは「マユリカ」「トム・ブラウン」の8点差、最も点数に差がなかったのは「エバース」の3点差。
  • 「トム・ブラウン」は最高得点(10組中1位の点数)を付けた審査員が1人、最低得点(10組中10位の点数)を付けた審査員が3人と両極端に評価が分かれました。

博多大吉の審査の特徴

  • 昨年も最高得点と最低得点に8点差を付けていたが、今回も最高得点と最低得点の差が9点と審査員9人のうち最大。
  • 「バッテリィズ」と「トム・ブラウン」は95点で同点だったが、そのほかの組には同じ点を付けておらず、得点差を付けようと意識していることがうかがえる。
  • 6位「トム・ブラウン」への評価が高く、審査員平均の91.44よりも3点以上高い95点。
  • 7位タイだった「ダイタク」と「マユリカ」で、「マユリカ」の方を3点高く付けていたのが特徴的。

ナイツ塙の審査の特徴

  • 昨年は最高得点と最低得点差が4点で、今回はその差が6点と少し広がった。
  • 昨年は93点を3組に付け、同じく91点を3組に付けていた。今回も94点を2組に、93点を3組に、91点を2組に付けており、同じ点数を複数の組につけがちな傾向がうかがえる。
  • 6位「トム・ブラウン」に大吉と同じ95点を付けているのが目立つ。「トム・ブラウン」に最高得点を付けたのは塙だけだった。
  • 1位「バッテリィズ」の得点が、他の審査員が全員95点以上だった中、審査員中最も低い93点だったのも特徴的。

笑い飯哲夫の審査の特徴

  • トップ「令和ロマン」の得点90点は、審査員平均94.44を4点以上下回っている。同様に3組目「真空ジェシカ」に付けた90点は、審査員平均94.33よりも4点以上低い。
  • 4組目「マユリカ」の得点88点は、審査員平均91.11よりも3点以上下回っている。
  • 以降の組への得点は、審査員平均から大きく乖離することはなかった。
  • 前半4組の得点は、トップの「令和ロマン」の点を低くしすぎてバランスを崩したのか、それとも自身の判断基準や好みとして結果そうなったのかは聞いてみたいところ。

オードリー若林の審査の特徴

  • 最高得点と最低得点の差こそ6点とそこまで大きくないが、9人の合計点の順位と若林の点数の順位はかなり近く、今年の審査の傾向≒若林の審査となっていた。
  • 具体的には、9組目で4位になった「エバース」に自身の得点で2位タイの94点、10組目で6位になった「トム・ブラウン」に自身の得点で4位タイの93点。それ以外の8組については、全体順位と若林の順位は同じか1つしか違わない。
  • 審査コメントも具体的かつ独自性のあるものが多く、初審査員とは思えない堂々とした審査ぶりでした。

NON STYLE石田の審査の特徴

  • 最高得点と最低得点の差が9点と、大吉・柴田と並び審査員9人のうち最大。
  • 6位「トム・ブラウン」の点数が、審査員平均の91.44よりも3点以上低く自身の中で10位の88点。
  • 6組目の「ジョックロック」に89点を付けた直後、7組目「バッテリィズ」に97点と8点の差を付けている。
  • 同様に9組目の「エバース」96点の次に、10組目「トム・ブラウン」に88点と8点差を付けており、前の組の点数に引きづられずしっかり基準を持って審査している様子がうかがえる。

かまいたち山内の審査の特徴

  • 全組に90点以上を付けているが、最高得点と最低得点差は7点あり比較的バランスは取れている。
  • 「真空ジェシカ」への評価が高く、大吉同様自身最高点の97点を付けている。
  • 自身2位タイの評価の「令和ロマン」「バッテリィズ」に96点、4位評価の「エバース」に94点と、上位3組とそれ以外で2点以上の差を付けたのが特徴的。
  • 「ジョックロック」と「ママタルト」の点数が5位タイの93点で、共に審査員の中で最も高い(海原ともこと同じ点数)のも目立つ。

アンタッチャブル柴田の審査の特徴

  • 最高得点と最低得点の差が9点と、大吉・石田と並び審査員9人のうち最大。
  • 上位5組が91点以上、下位5組が89点以下と上位と下位できっちり差を付けているのが目立つ。
  • 6位「トム・ブラウン」の点数が、審査員平均の91.44よりも4点以上下回り、全審査員の点数の中で最も低い87点。
  • 初審査員ながら、物おじせず堂々としたコメントと得点の付け方で、個人的に好感が持てました。

海原ともこの審査の特徴

  • 最高得点と最低得点の差が5点と、全審査員の中で最小。最低点数が92点と同じく全審査員の中で最も高い。
  • 7位タイ「マユリカ」の点数が、審査員平均の91.11よりも4点以上高く、全審査員の点数の中で最も高い96点。
  • 9位「ジョックロック」への評価が高く、審査員平均の91.00よりを4点上回る95点。
  • 「令和ロマン」と「バッテリィズ」に1位タイの97点を付けたほか、2組に95点、4組に94点を付けるなど、塙同様に同じ点数を複数の組につけがちな傾向がうかがえる。

中川家礼二の審査の特徴

  • 昨年は最高得点と最低得点差が5点だったが、今回はその差が8点に広がった。
  • 「ママタルト」の得点が、審査員の中で最も高い93点(山内と同じ点数)と評価が高いのが特徴的。
  • 石田と柴田同様、6位「トム・ブラウン」に自身の最低点89点を付けている。
  • 5位「ヤーレンズ」が自身9位の点数90点だったのも目立つ。

最終決戦の審査結果を振り返る

審査員の投票結果は
大吉 哲夫 若林 石田 山内 柴田 ともこ 礼二
令和ロマン 真空ジェシカ バッテリィズ バッテリィズ 令和ロマン 令和ロマン 令和ロマン 令和ロマン バッテリィズ
  • 1位:令和ロマン5票
  • 2位:バッテリィズ3票
  • 3位:真空ジェシカ1票
令和ロマンが優勝。史上初の連覇を成し遂げました。

審査結果に関して

  • 9人中5人がファーストラウンド2位だった「令和ロマン」に投票。
  • ファーストラウンドで9人中6人が最高得点を付けた「バッテリィズ」が、最終決戦では3票で準優勝という結果に。

今大会に関して

去年から変更されたところ

各組の登場シーンの変更

今年は各組が出てくるセンター奥の登場口が両開きのLEDになっていて、いつもの出囃子が始まると競り上がるのと同時に、LEDにはそれぞれのコンビの映像が投射されるようになりました。LEDの内側(芸人がスタンバイしている側)にもカメラが仕込まれていて、テレビで見ている視聴者は競り上がるシーンも見ることができる仕組み。LED開いて階段を降りてくる演出は、期待感と高揚感がより高まるので良い変更だったと個人的に思います。

出場資格

公式サイトによると「M1グランプリ2022」の出場資格は

  • 結成15年以内(2009年1月1日以降の結成)
  • プロ・アマ、所属事務所の有無は問わず。
  • 2人以上の漫才師に限る。(1名(ピン)での出場は不可。)
  • プロとしての活動休止期間は、結成年数から除く。

審査基準として記載されてるのは、今年も“とにかくおもしろい漫才”のみ。審査員の採点で決定すると明記されています。

となっていて、昨年から変更はありません。2024年大会は総エントリー数が、再エントリーを含め10330組と初めて10000組を超えました。

2024年M-1の傾向

かつては「マヂカルラブリー」が優勝して”漫才か漫才じゃないか”の論争が起きたり、山田邦子の審査・採点に関する非難が一部で起きたりしました。今回は・・・

  • 海原ともこの「ヤーレンズ」に対する「もっとしょうもないもの(ネタ)見たかった」というコメントが一部で非難の的に。「しょうもない」はいうまでもなく褒め言葉なので、それを読み解けない人たちのことはほっといていいと思います。
  • 松本人志不在の審査員も。9人それぞれの総評や指摘に説得力があり、結果も多くの人が納得するものになったのではないでしょうか。
  • 今回は4位「エバース」が2位「令和ロマン」と2点差、3位「真空ジェシカ」と1点差と非常に接戦でした。もし審査員が9人ではなく、例えば大吉不在の8人だったら「エバース」と「真空ジェシカ」が入れ替わっており、柴田不在の8人だったら「エバース」と「真空ジェシカ」「令和ロマン」3組が2位タイで並ぶという結果になっていました。
  • 松本人志という軸が不在のケースとして、9人という人数はバランスがとれており、一人ひとりの負担やプレッシャーも軽減され、結果的にはよかったのでは。
  • 来年以降どうなるのかわかりませんが、ひとまず2024年の大会は番組の盛り上がりとしても、大成功に終わったといえるでしょう。

大会全体に関して言うと

  • 今年はR-1グランプリ優勝者が、トゥインクル・コーポレーション所属の「街裏ピンク」、キングオブコントがASH&Dコーポレーション所属の「ラブレターズ」、THE Wがフリーの「にぼしいわし」と吉本以外の芸人が優勝。M-1を逃すと吉本所属芸人が4大賞レース無冠という事態になるところでしたが、見事吉本所属の「令和ロマン」が連覇を果たしました。
  • 個人的には、ここ数年のM-1は“掛け合いの奥深さ”“漫才の幅の広さと多様性”を感じる大会でした。今回は、“言葉と動きでイメージを共有する漫才という表現の奥深さを感じる大会”という印象です。

令和ロマンの最終決戦のネタ「戦国時代にタイムスリップ」が象徴的ですが、セットや小道具なしで、言葉と動きだけでシチュエーションと世界観を観客に提示して、イメージを共有するという漫才の奥深さと難しさを改めて実感しました。来年以降どんな新たなコンビが現れるのか、どんなネタが見れるのか楽しみです。

今回も前年度の決勝進出者が、2年連続決勝進出という高い壁に阻まれました。

  • 前年度の決勝戦進出者「モグライダー」が3回戦で敗退
  • 同じく、前年度の最終決戦進出者「くらげ」が準々決勝で敗退

過去の決勝進出経験や知名度などは考慮されず、予選から一貫してそのときのネタの出来で審査が行われているのがわかる結果です。

今年はエントリーがついに10000組を超え、決勝に進むまでの道のりは年々高くて分厚い壁になっています。そんな中、最終決戦進出3組に残るために必要だと個人的に思うことを以下に列挙しておきます。

  • 技術と発想と表現力や度胸・胆力に加えて、観客を巻き込んで自分たちの世界ひ引き込む力を兼ね備えてないと、最終決戦3組には残れない。
  • 設定やワードチョイスのセンス・大喜利力だけでは勝ち上がれない。上手いだけでも、奇抜なだけでもそもそも決勝まで残れない。
  • そのコンビにしか出せないオリジナリティー、2人の個性がネタに乗っていないと勝ち上がれない。
  • 4分間のペース配分やリズム・テンポなどを綿密に計算し、限られた時間をより有効に使わなければならない。

年に一度、“漫才”やそれを評価する審査員に関して様々な意見が飛び交い、毎年新たな話題とスターを生み出す唯一無二のコンテンツ「M-1グランプリ」、来年2025年がどんな大会になるか今から楽しみです。

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