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元芸人の構成作家が【M-1グランプリ2022】決勝の審査を分析

私、ことりはかつて吉本興業で4年少々芸人やっておりました。今もお笑いが好きというのは変わらず、いわゆる賞レースの決勝は毎回録画して自分なりに採点し、審査員の審査(得点)の分析を行っております。今回はM-1グランプリ2022決勝の審査を分析してみたいと思います。以下敬称略。
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M-1グランプリ2022決勝の審査方法

M-1グランプリ2022テレビでオンエアされる決勝の審査方法は
  • 「ファーストラウンド」は7人の審査員が1人100点の持ち点で審査。
  • 1組のネタが終わるごとに「笑神籤(えみくじ)」というクジで、次にネタを披露する芸人が決まる。
  • 昼間に行われた敗者復活戦によって、1組が決勝に勝ち上がる。
  • ファーストラウンド10組のネタ終了後、得点上位3組が「最終決戦」に進出。
  • 最終決戦はファーストラウンド上位の組からネタ順を選択。3組のネタ披露後、審査員は3組のうち1組に投票。最も票数を集めた芸人が優勝となる。

という方式です。

審査員は山田邦子、博多大吉、サンドウィッチマン富澤たけし、ナイツ塙宣之、立川志らく、中川家礼二、ダウンタウン松本人志、上沼恵美子の7名。2018年、2019年、2020年に続き4年連続この7人です。

ファーストラウンドの審査結果を振り返る

邦子 大吉 富澤 志らく 礼二 松本 合計 平均
カベポスター ⑩84 ②94 ⑤92 ⑤93 ⑧90 ⑥92 ⑦90 ⑧634 90.57
真空ジェシカ ①95 ⑤92 ⑤92 ⑥92 ⑥94 ⑤94 ⑧88 ⑤647 92.43
オズワルド ⑥87 ③93 ⑧90 ⑧90 ④95 ⑥92 ⑤92 ⑦639 91.23
ロングコートダディ ②94 ⑤92 ③94 ③94 ③96 ④95 ④93 ②660 94.29
さや香 ③92 ①96 ②95 ①97 ④95 ①97 ②95 ①667 95.29
男性ブランコ ⑧86 ⑦91 ⑤92 ②95 ⑥94 ②96 ①96 ④650 92.86
ダイヤモンド ⑧86 ⑨90 ⑨88 ⑩88 ⑩88 ⑩89 ⑨87 ⑩616 88.00
ヨネダ2000 ④91 ⑦91 ①96 ⑦91 ②97 ⑧90 ⑥91 ⑤647 92.43
キュウ ⑥87 ⑨90 ⑨88 ⑧90 ⑨89 ⑧90 ⑩86 ⑨620 88.57
ウエストランド ④91 ③93 ④93 ③94 ①98 ②96 ③94 ③659 94.14

審査結果

  • 今年は審査員によって最高得点(10組中1位の点数)を付ける組が分かれましたが、その中でも7人中3人が最高得点を付けた「さや香」が、2位に7点差を付けてトップで最終決戦進出。
  • 続いて全員が92点以上の点数を付けた「ロングコートダディ」と、1人が最高得点を付け全員が91点以上の点数を付けた「ウエストランド」が、それぞれ2位と3位で最終決戦進出。
  • 今年は最終決戦進出ラインが659点と、昨年の655点を4点上回り現行の制度になってから最も高い点数。7人の平均が94点を超えることが最終決戦進出の条件になっています。
  • 3位「ウエストランド」と4位「男性ブランコ」が9点差と、最終決戦進出の3組とそれ以外の組で点差が開きました。
  • 9位の「キュウ」の620点と8位の「カベポスター」の634点で14点差と、大きな差が開く結果に。

山田邦子の採点が物議をかもしましたが、仮に山田邦子の点数を抜いた点数を出すと

  山田邦子抜きの合計点数
カベポスター ⑧550
真空ジェシカ ⑥552
オズワルド ⑥552
ロングコートダディ ③566
さや香 ①575
男性ブランコ ④564
ダイヤモンド ⑩530
ヨネダ2000 ⑤556
キュウ ⑨533
ウエストランド ②568

仮に山田邦子の点数を抜いた場合も、2位と3位が入れ替わるものの最終決戦進出の3組のメンツは変わりません。後述しますが、審査員が7人いることのメリットは1人の点数が影響する割合を限定できるという点にあると思います。

審査の傾向

邦子 大吉 富澤 志らく 礼二 松本
最高得点 95 95 96 97 98 97 96
最低得点 84 90 88 88 88 89 86
得点差(最高点-最低点) 11 6 8 9 10 8 10
  • 去年は審査員7人中5人が最高得点と最低得点の差が7点以下だったが、今年は大吉を除く6人が最高得点と最低得点で8点差以上を付け、点数差が付く審査になった。
  • 「カベポスター」は大吉が94点で邦子が84点と10点差、同じく「男性ブランコ」は松本が96点で邦子が86点差で10点差が付き、審査員によって評価が分かれた。
  • 審査員による点数差が少なかったのが下位2組の「キュウ」「ダイヤモンド」の4点差。逆に上位の組は審査員によって好みが分かれたという結果に。

山田邦子の審査の特徴

  • 最高得点と最低得点の差が11点と審査員7人のうち最大。上位5組は91点以上、下位5組は87点以下と明確に差を付けているのが特徴的。
  • 「真空ジェシカ」への評価が高く、「カベポスター」「男性ブランコ」への評価が他の審査員より低め。
  • 初参加の審査員は無難に行きがちなところを、周りに左右されず独自の基準で点数を付けたところは、個人的には責務を果たしていて素晴らしいと思います。

博多大吉の審査の特徴

  • 全組に90点以上の点数を付け、最高得点と最低得点の差が6点と7人の審査員の中で最小。
  • 「カベポスター」が10組中2位、「オズワルド」が3位タイの点数と評価が高く、「男性ブランコ」「ヨネダ2000」が10組中7位タイの点数と評価が低め。
  • 傾向としては、コント要素が強い漫才よりもしゃべくり漫才の評価が高くなっている印象です。

ナイツ塙の審査の特徴

  • 「オズワルド」「ダイヤモンド」「キュウ」以外の7組が、92点から96点の4点の間に固まっているのが特徴的。
  • 審査員で唯一「ヨネダ2000」に1位の得点を付け高評価。
  • サンドウィッチマン富澤とかなり似た得点の付け方になっていて、10組中4組が同じ得点。

サンドウィッチマン富澤の審査の特徴

  • 7人の審査員の合計点の順位と富澤の点数の順位はかなり近く、今年の審査の傾向≒富澤の審査となっていた。
  • 7人の平均得点と富澤の得点の差は全て2点以内と驚異的なシンクロ率。
  • ナイツ塙とかなり似た得点で、評価が分かれたのは富澤は「男性ブランコ」の評価が高く、塙は「ヨネダ2000」の評価が高いところ。

立川志らくの審査の特徴

  • 「オズワルド」「ヨネダ2000」「ウエストランドの得点が、審査員7人の平均より3点以上高かった。
  • 例年同様自分の好み、ハマった組に対して高得点を付け、独自の評価基準があることがうかがえる。

中川家礼二の審査の特徴

  • 礼二の点数も今年の審査の傾向に近く、審査員7人の平均点に近い点数を付けていた。
  • 「男性ブランコ」に2位の得点を付け評価が高く、ヨネダ2000に8位の得点を付け評価が低めだったのが特徴的。

松本人志の審査の特徴

  • 10組全てに1点ずつ異なる点数を付けたのは流石の一言。
  • 「男性ブランコ」に1位の点数を付け評価が高く、「真空ジェシカ」に審査員で唯一80点代を付けたのが、他の審査員と異なるところ。
  • 今年も笑いも交えつつ要所で芯を食ったコメントをして、大会の権威を保つ象徴としてなくてはならない存在。

最終決戦の審査結果を振り返る

審査員の投票結果は
邦子 大吉 富澤 志らく 礼二 松本
ウエストランド さや香 ウエストランド ウエストランド ウエストランド ウエストランド ウエストランド
  • 1位:ウエストランド6
  • 2位:さや香1票
ウエストランドが優勝

審査結果に関して

  • 3組終わった後の審査員の様子から票が割れるかと思いきや、今年は7人中6人が「ウエストランド」に投票。
  • ファーストラウンドで7人中3人が最高得点を付けた「さや香」が最終決戦では大吉の1票にとどまった。

今大会に関して

去年から変更されたところ

控え室から舞台までの移動シーンが無くなった

今年は控え室から舞台までの移動の間は、紹介映像になりました。2019年までのやり方に戻ったということになります。

審査員の登場の仕方の変更

去年は幕に紹介映像を流れて、映像の最後が7人のシルエットで。その幕を振り落とすと7人がシルエットと同じ並びで立っているという形でした。

その前は奥の台上から登場して審査員席へという流れで、中川家礼二いわく「審査員も登場でボケせなあかん」。今年は奥からの登場ではありましたが、以前と比べるとストロークは短かったので、何か一ボケしなきゃいけない雰囲気にはなりませんでした。

出場資格の変更

公式サイトによると「M1グランプリ2022」の出場資格は

  • 結成15年以内
  • プロ・アマ、所属事務所の有無は問わず
  • 2人以上の漫才師に限ります。(1名(ピン)での出場は不可。)
  • プロとしての活動休止期間は、結成年数から除く。

審査基準として記載されてるのは、今年も“とにかくおもしろい漫才”のみ。

となっていて、昨年から変更はありません。

2022年M-1の傾向

一昨年2020年の大会は「マヂカルラブリー」が優勝し”漫才か漫才じゃないか”の論争が起きたりました。今年は山田邦子の審査、採点に関して論争というか非難が一部で起きてました。しかし・・・

  • 前述したように、山田邦子の点数を抜いても最終決戦進出の3組は変わりません。
  • ファーストラウンド4位「男性ブランコ」とラウンド3位「ウエストランド」の合計得点の差が9点差で、2位「ロングコートダディ」が10点差と大きかった。
  • どの審査員の点数も「男性ブランコ」と2位3位の組との差は8点差以内なので、誰か1人の点数を抜いてもその差は逆転しません。
  • 1人の得点、審査が結果に及ぼす範囲は限定的になっています。
  • 個人的にはこれが7人で審査を行う最大のメリットだと思っています。

大会全体に関して言うと

  • 今年はタイタン所属の「ウエストランド」が優勝し、昨年のSMA所属の「錦鯉」につづ義、初めて2大会連続吉本以外の事務所所属の芸人が優勝しました。
  • 個人的には2019年は“掛け合いの奥深さ”を、2020年は“漫才の幅の広さ”を、2021年は“M-1という大会の競技レベルの底上げ”、2022年は2020年に似てますが、“漫才の多様性感じる大会”という印象です。

「音符運び」の漫才もあれば、「イギリスで餅つきをしたい」漫才もあれば、痛快な毒舌(というかぼやき)漫才もあればと、多種多様なネタを見ることができる大会です。

逆にセオリーや決勝進出への必勝法といったものを見つけるのは難しい状況と言えます。

  • 前年度の決勝戦進出者「もも」が3回戦で敗退
  • 前年度の最終決戦進出者「インディアンス」が準々決勝で敗退
  • 準決勝に進出した前年度の決勝戦進出者が「真空ジェシカ」「オズワルド」「ロングコートダディ」のみ。かつ、この3組が決勝進出(敗者復活で勝ち上がった「オズワルド」含む)
  • 決勝進出経験者「馬鹿よ貴方は」が1回戦敗退

過去の決勝進出経験や知名度など全く関係なく、予選から一貫してそのときのネタの出来で審査が行われてるのがわかる結果です。準決勝を配信で見ましたが、とても公平な審査で爆笑を取った組が決勝に上がり、そこに実績や人気は関係がないのを改めて実感しました。もちろん個人的に「このコンビ決勝で見たかった」というのはありますが、結果に不満はありません。

今年はエントリーが7261組。決勝に進むまでの道のりは年々高くて分厚い壁になっている印象です。そんな中最終決戦進出3組に残るために必要だと個人的に思うことを以下に列挙しておきます。

  • 技術と発想と表現力と度胸を兼ね備えてないと勝ち上がれないが、それにプラスして熱量で観客を巻き込むことができないと、最終決戦3組には残れない。
  • 設定やワードチョイスのセンスだけでは勝ち上がれない。上手いだけではそもそも決勝まで残れない。
  • どこかそのコンビならではのオリジナルな部分がないと勝ち上がれない。
  • 4分間の時間の使い方(ペース配分やリズム・テンポなど)を計算し、より有効に使わなければならない。
  • 台本が優れていても、表現力や技術があっても、ネタにそれを演じる人間がしっかり乗ってないとダメ。

年に一度、“漫才”というものに関して様々な意見が飛び交い、毎年新たなスターを生み出す唯一無二のコンテンツ「M-1グランプリ」、来年2023年がどんな大会になるか今から楽しみです。

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